2007-02-09から1日間の記事一覧

 ● 気分を一新して、敗戦後の日本の芥川賞作品を読む

その時代時代の社会情勢がどのようなものであっても、そこから切り取って描かれる小説の人間物語の「視点」は、一定の文学的普遍性を保っていなければならないということが、今回の昭和10年から敗戦の20年まで続けられた芥川賞選考作品を読んでみて、それが…

 ●戦時中、最後の受賞作品「雁立(かりたち)」(清水基吉)はほろ苦い!

昭和20年敗戦までの、日本という国を戦闘に向かわせる「驕り昂ぶった精神」はいったいどのようにして醸成されたのであろうか。考えてみると不思議である。今では、これに似た「精神」は日本の場合、サッカーの国際試合においてくらいにしか見られないように…

 ●「登攀(とうはん)」(小尾十三)は、意外に掘り出しものかも!

我々戦後派にとって、丁度、昭和10年(芥川賞が始まった年)頃から敗戦の昭和20年頃までは、その時代を写すさまざまな「情報」が少ない時代である。たとえば、「満州」という中国の地方の固有名詞が与えるイメージ等は、現在から想像するに非常に屈折する。…

 ● 第18回、第19回の受賞作品、三作。

第十八回目の東野邊薫の「和紙」は、福島県の農村が舞台である。昭和18年であるから、すでに日本はアメリカと戦っているわけで、客観描写で作者が語るお話は友太という青年が主人公である。一度出征して任期を終え、農業のかたわら副業で紙漉きをやっている…